02 今、舌舐りしたでしょう 00


 それを、恋と認めるのは簡単な事だろう。

 アタシが一番最初に発した言葉らしい言葉は「だーだ」だったらしい。最もこれを人の名前だと判断するのは、どうかとアタシは思うのだが。マーマでも、パーパでもないそれが、大樹を呼んだものであるなんて、とても信じられない。それでもそれを笑い話にする母と悔しそうに話す父の言う所には、言葉を覚えてもしばらくは大樹を「だーだ」と呼んでいたのだというから、完全に否定出来ないのが悲しい所だ。
 でもまあ兎に角、そんな事が当たり前になる程身近にいたのが、この大樹という男だ。
 アタシだって覚えている。小さい女の子が誰でも一度は言った事がありそうな、「パパと結婚する!」という言葉も、アタシにとってはその対象が大樹だった。とはいえ恋心も芽生えてない少女にとっての結婚は、単純に仲の良い証でしかなかった。
 周りの誰もが勘違いする程、アタシと大樹は仲の良い兄妹。
 小学校の何時だったか、大樹が兄でなかったと知った時のショックは、今でも鮮明に覚えている。兄であろうが従兄弟であろうが関係性に代わりが無いように思えるけれど、家族と親戚というのは大きな隔たりがあるような気がしてならなかったのだ。
 突然大樹が遠くに行ってしまったかのような心細さに大泣きしたアタシを、母は笑った。
 この、母という人が曲者である。実の娘の世話を、自分とは血の繋がっていない甥っ子に、ほとんど任せきりにしていたような人。叔母と結託して、ほとんど大樹に纏わるアタシの赤っ恥を、笑い話として語る人。
 実の娘が操を奪われそうになっているというのに、「ごゆっくりー」と言って買い物に出たきり三時間も帰らず、帰ってきたと思ったらお赤飯を炊いて、当事者と片方の両親とで食べるというような気まずい夕食を提供してくれた。
 そんな母への反発心もあって、勿論、大樹への意地もあって、アタシはこの感情を恋とは認めないでいるけれど。
 母にも、大樹にも、見透かされてはいるだろう。

 つまり、ソレを受け入れている時点で、そういう事。

 それでも、仲の良い従兄弟 兼 恋人未満というのが、アタシ達の関係だと言い張りたい。





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