サイトのカウンター50万hitを記念した、小話です。
2011/05/28 - 06/30 に開催した第一回キャラ投票に頂いた質問から派生しました。

>> ツカサとゲオルグ殿下
Q ゲオルグ殿下の、『ツカサ愛人発言』は何%くらい本気なのですか?

 殿下と夫人と愛人


 ゲオルグ殿下とその奥さん、ユーリ様と過ごす時間は、俺にとって時々憂鬱だ。
 二人共品も格もありながら、俺に対して気取った事無く、本当の家族のように接してくれて、そういう所は申し訳ないくらいで文句なんて無い。教育、という面では容赦なく厳しいけれど、冗談だって解すしお茶目な気性の夫婦だと思う。
 そのお茶目な部分が突出しすぎて、時々ついていけなくなるのは二人には秘密――ばれていてなお面白がられている気もするけど。
 憂鬱な時間の始まりは、夫婦のどちらかが「暇だ」と言い出す事。それに片割れが同意すれば、そこから何故だか『ごっこ遊び』が始まってしまう。娘さんのジュリスカさん曰く、夫婦の今現在のブームなのですぐに飽きるだろうという話だが。
 ごっこ遊び。例え話。シュミレート。
 突然始まるそれは、殿下と夫人と、愛人(俺)の、出来損ないの即席演劇とでも言えばいいだろうか。
 俺はついていけないので大抵だんまりなのだが、夫婦は息が合っていて、次々に台詞を紡ぎ出す。
 確か一昨日の設定は、体裁を取り繕う冷え切った夫婦と愛人(俺)だった。愛情は無いけれど愛人の存在をプライドが許さない妻役を演じたユーリ様は、似合いすぎていて本気で怖かった。夫婦の会話にも熱がなく冷え切っていて、事務的だった。
 その前日は妻の一方的な愛と、愛人に夢中なゲオルグ殿下の設定で、一人さめざめとなくか弱い女性の演技が、これまたユーリ様は巧かった。
 その前は何だったか。愛人が権力を持ち、夫人であるユーリ様がシンデレラのような扱いを受けている設定だった。これまたユーリ様は熱演していた。
 粗方の設定はこなしてしまったので、今日はちょっと嗜好を変えてみるらしい――その結果、今度は俺はユーリ様の愛人設定だった。夫の留守中に愛人との情事を楽しむ、だとか、若い愛人に貢いでみる、というような。それでその場面に出くわした夫との修羅場を、これまたユーリ様は完璧に演じてみせた。
「貴方に何が言えて? 仕事仕事で私に見向きもせず、家のいっさいを蔑ろにして置きながら、私が貴方を蔑ろにすれば非難するというの?」
「誰の為に仕事をしていると思っているのだ」
「まあ、誰の為なの? 私はてっきり、お仕事が大好きなのだと思っていましてよ」
 そんな事を言いながら、ユーリ様はこれ見よがしに俺に擦り寄ってみせる。俺はといえば木偶の坊よろしくただ立っているだけ。
 ゲオルグ殿下の眉根に深い皺が刻まれる。それだけで不快を顕にしてみせる。
「私、貴方が愛人を作ろうと構いませんわ。私もそうしますから、どうぞ貴方も自由に楽しんで?」
 ――生き生きと、ユーリ様が言葉を紡ぐ。とてもとても、楽しそうに。
 そうしてユーリ様の声音が弾む度に、ゲオルグ殿下は心なしか嬉しそうに、瞳を輝かせている。

 何だ、この夫婦。

 何時ぞや何かの会話の間に、誰も本気にしない俺の素性=愛人説を提唱してから、それがどうやらユーリ様に伝わり、それがこの夫妻にとっては中々面白い展開だったようなのだ。
 かといってお互い、実際に愛人がいようものなら縊り殺してやると本気で仰るくらいなので、本当にもう、良く分からない。
 夫妻のお子様達はこれも一つの愛の形だと納得というか、もう諦めきっているようで、別段二人のごっこ遊びを止めてもくれない。

 愛人役の俺がひたすら疲弊するという暇つぶしの『ごっこ遊び』は、一体何時まで続くのだろう――。







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