サイトのカウンター50万hitを記念した、小話です。 2011/05/28 - 06/30 に開催した第一回キャラ投票に頂いた質問から派生しました。 >> 長瀬 司 Q 一度でも着てみたい服装(女の子用で)は何ですか? 男装と女装について女装、と言ってはおかしな話だけど、中学校の制服のサイズ合わせの日にセーラー服を試着した時、鏡を前に俺が思った感想は「まるで女装をしているみたい」だった。それは隣で様子を眺めていた教師も、同級の女の子達にとっても同意見だっただろう。 父親は都合がつかなかったので、隣人森下家のおばさんが付き合ってくれていたのだが、家の事情を知っている彼女でも 「似合わないわね」 とばっさりだった。髪の毛を伸ばしたらいいんじゃないか、と言っていたが、当時の俺は完全に少年だったので、それこそおかしな風貌になるだろうと予想が出来た。 そもそも何故セーラー服を着てみようと思ったのだろう。父親が最初からその気であったように、最初から学ラン以外の選択肢はなかった筈だ。 ――だけど、夢だった。 昔から男の子になりたくって、むしろ自分を男だと信じて生きてきて、それでも、ある時自分が男とは違うんだって気付いた。例えば普段から男の子の格好をしてそれなりに過ごしてきたけど、ある夏の日、スクール水着は男女とからかわれても男の子のそれを着る勇気は流石になかった。まな板だったけど、胸を晒せなかった。恥ずかしかった。男子のトイレに入ってもなんて事無いが、個室以外で用を足す気にはなれない。男子の家にお泊り出来ても、一緒に風呂には入れない。 つまり、一応女としての自覚はあった。 羞恥心が何時からか、女の子への憧れも生んだ。可愛いものを愛でてみたい、女の子の雑誌を堂々と読んでみたい。夏祭りの縁日で射的で打ち落としたい景品がおもちゃの指輪であった事もある。 自分は剣道が好きだし、今のスタイルを変える気はないけれど、中学校では規則だからセーラー服を着るしかないな、なんて。 自分の憧れを誤魔化すように、そんな風に考えてみたって。 似合わないものは仕方がない。 昔の写真を探してみても、ズボン以外を履いている自分を見た事が無い。何時もどこかしらに絆創膏を貼って、外遊びの最中を激写されている。むしろ弟の方が女の子に見える可愛さだ。 男の子と間違われた事は何度もあるが、女の子に間違われた事は一度として無い。ここからおかしな話だが。 授業で男女別にされれば当たり前のように男の子の方に入っていたし、何かと男役だった。既にこの時点で学校の扱いがおかしい。気にした事なかったけれども。 結局上の兄貴のお下がりの学ランを着る事に決めたのだが、入学式に戸惑った教師陣に職員室に連行される羽目になった。父親つきでだ。 俺もだけど、父親も常識が無かった。 「生徒手帳には何も書いていませんが?」 と、むしろ相手を批難する調子で答えた父親。 目を見開く校長、しどろもどろな教頭、ぽかんとする担任。 女子は女子の制服を、男子は男子の制服を、などと勿論わざわざ記載してはいない。当たり前にそこを守らない生徒など前代未聞だろう。 そりゃあ、試着してみるまで俺も微かな憧れを抱いていたりしたんだ。セーラー服を着た自分を前日も妄想して――結局想像出来なかったけど――案外似合うかもなんて思った。殴ってやりたい。 駄目だ。俺にあんな下から風が送られてくるスカートなんて着られない。。第一下着が既にボクサーパンツなので、万が一にも見られた場合完全に女装した男になってしまう。 「しかし男装は、」 と何とか言い募った教頭は、父親の眼光鋭い一睨みに沈黙。 「ツカサ君はそれで良いのかな」 と控え目に問い掛けてきた担任教師が既に俺をクン付けなんだが、無意識だろうか。 何にしても既にセーラー服姿の自分に撃沈した後だ。 「むしろこれで」 と言う以外に何が言えただろう。 そうして俺の男装は黙認されたわけである。 |
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