00 prologue |
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私がこの書を記すに当り、まず始めに伝えたい事は、グランディア王国の繁栄の陰には、異世界から召喚された妃の姿があった――という事だ。 その始まりは、アラクシス王家始祖、カイル国王陛下の王妃アナスタシア様である。彼女は激しい後継者争いの渦中に現れ、長い戦乱を治めたカイル国王に寄り添った。かの王の治世は、王国の基盤を作った。 その後の幾たびの戦乱、災害による困窮、数多の王国の危機に瀕して、異世界人は召喚された。 「異世界人との結婚は、王国に安寧と平安を齎し、至上の幸福へ導く」 そう謳われるように、異世界人を妃に戴いた王の治世は、一点の濁りなく、かくも素晴らしいものとなった。 王国は栄え、民は潤い、今日の繁盛に続く。 異世界より参られた妃は、古の時代に様々な形をもってグランディアを救ったエスカーニャ神の恩恵の一つと、我らはその恵みを享受した。 しかし、と、ある者は言う。 我が国の繁栄を支える妃その人に、平安と幸福はあったのか、と。 長く異世界と召喚術の理を探ってきた我々研究者の中で、しばし論じられる事である。 異世界での妃の一生を犠牲に、我が国は成り立つ。帰る道は無く、その人生をグランディアに縛られる。 それを不幸と呼んでしまえば、不幸以外の何物でもないだろう。 ――ここに、興味深い一文がある。 ディーダ国王の時代のマゼル妃の日記の抜粋である。 マゼル妃は二人の王子を産んだ後、宮中で凶刃に斃れた。彼女に刃を向けたのが城で働く女中であった事は、真に遺憾である。 だが妃は、死すまでの床で最後の日記にこのような事を記していた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 彼女は燃えるような瞳で私を睨みんだ。 「陛下が貴女を愛していくのが分かった。だから貴女が憎らしい」 それが真実なら、私はこの上なく幸せだった。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− マゼル妃の人生の全てが、日記にあるとは思わない。 その想いや生活が、全て窺えるものではない。 まして日記を紐解き、彼女の一生を理解した時、多くの者は彼女を不幸と評すだろう。 だがその是非を、私に問う事は出来ない。 過去にそうであったように、これから先、我が国の歴史の中に、異世界より召喚される妃の姿は幾度となく現れるであろう。 グランディア王国を支える為に、国王の栄華を助ける為に。 例え王国の繁栄の陰で、妃の一生が犠牲になろうとも、我々はその助け無しには生きてゆけぬ。 妃の不幸も幸福も飲み込んで、グランディア王国は歴史を紡ぐ。 だからこそ、私は今一度、言いたい。 グランディア王国の繁栄の陰に、異世界から召喚された妃がいるのだ、と。 top next |
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