サイトのカウンター50万hitを記念した、小話です。
2011/05/28 - 06/30 に開催した第一回キャラ投票に頂いた質問から派生しました。

>> 司と高志
Q 二人はただの友人ですか?恋愛フラグは?

 幼馴染の言うことにゃ


 長瀬 司は男になりたいのか。女が好きなのか。

 時々“ヤツラ”は興味本位で問い掛けてくる。

 長瀬 司と付き合っているのか。女の子として好きなのか。

 それに答える俺の顔は、何時も何も考えて居ないような笑顔だ、と人は言う。
 だけど、何の葛藤もなく、何の迷いも無く、口を開いているわけじゃあ、無い。

 司は男になりたいわけでも、女が好きなわけでも無い。
 司と付き合っているわけでも、女の子として好きなわけでも無い。
 司は、女の子だ。剣道が好きで、男勝りで、女の子の気持ちに疎いだけの。
 何時か恋に目覚めれば、女の子として男を好きになるだろう。

「司は司だよ。それだけ」

 だけど幾万の言葉を飲み込んで、言えるのはそれだけだ。

 出会った頃の司は、そりゃ男の子にしか見えなくて、気の合うただの友達だった。男も女も関係無い、馬鹿な話をして、やんちゃをして、遊ぶ友達だった。
 司の方が足が速くて悔しい。剣道でも一度も勝てた事が無い。
 だけど次こそ、これこそ、そんな思いで色んな事に一緒に挑んだ。
 ある時、俺の母親と司の母親が一緒になって「司ちゃんは女の子なんだからあまり無茶をさせちゃ駄目よ」と俺を叱ったけれど、俺には全く意味が分からなくて。
 どうして女の子は木に登っちゃ駄目なの。どうして怪我したら大変なの。
 首を捻りながら、そんな事明後日の方向に忘れ去って、何時も司と遊んでいた。
 でも小学校に上がって、司の母親が家を出て行き、そして一番上のお兄さんが家を出ていった時、それじゃあ駄目だったんだ、って分かった。
 司は司なのに、司のままでは駄目なんだ、と、ただ漠然と思った。
 司はおかしくなんて無い。
 ――だけど、世間はそうは見ない。認めない。
 でも、どうしろと言うのだ。
 司はもう今更、『何』にもなれない。
 俺がいくら「大丈夫」と励ましたって、一時凌ぎ。
 本当にそう言って欲しい相手は、誰一人、本当の司を見ようとしないのだ。

 それにもう、司自身だって、分からなくなっている。

 何時まで今のままなのか。
 何をしたら変るのか。
 どうやったら、欲しいものが手に入るのか。

 司の母親が、全てを捨てて行った日。
 司の家からはずっと、誰かの泣き声と怒鳴り合いが聞こえていた。
 司は一人、庭の片隅で、擦りむいた膝小僧もそのままに蹲っていた。
 夜になっても、朝になっても、一言も喋らないまま。抱きしめてくれる温もりも、持たないまま。
 ただ一人忘れられたように、庭にぽつんと座っていた。
 俺は、そう出来た筈なのに、走りよって司を抱きしめてやる事も、慰めてやる事も出来ずに、ずっと、司を見てた。
 ――見ている事しか、出来なくて。

 俺が、あの時動けなかった自分を悔いている事を、司の瞳は何時も見透かしているようで、それは俺の錯覚でしかなかったとしても、俺はそれ以後、司の目を真正面から見返す事が怖くなった。
 そんな俺が、司の何もかもを分かった様な顔をして、一番近くに陣取っている。
 何もしてやれないくせに、何も分かってなんてやれないくせに。
 「司は司だ」なんて、「大丈夫だ」なんて、何も出来ないくせに。
 それでも俺は司の味方なんだと伝えたくて、それが例え自己満足でしかないんだとしても、それでも、何度でも、繰り返すんだ。

 司の心に届くまで、何度でも、何千回でも、何万回でも。



 伸ばした手を退けられた、小さな司が、今もどこかで泣いている。
 今もまだ、自分を肯定出来ないままでいる。






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