今だけ泣いてもいいですか?
黒服の集団が神妙な顔で出て行った。
母さんは一人一人に頭を下げた。
気丈な人ね、と誰かが言った。
それでも母さんは、その人に頭を下げた。
静まり返った六畳一間。
小さな箱に詰まった父さんが、写真の中で笑ってた。
闇に溶け込む母さんの背中。
僕の寝姿を確認して、小さく呟いた。
父さんに向かって呟いた。
「今だけ泣いてもいいですか?」
母さんが泣いたのを見たのは、後にも先にも一度だけ。
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